長崎大学 工学部 工学科 電気電子工学コース

福永・中野研究室

簡単磁石教室
1章 磁石の素  1.1 磁石の素
1.1.1 磁極間に働く力

 まず、磁石について多くの方がご存じのことを整理しておこう。
磁石には2つの磁極がある。
磁石で方位磁針を作ったとき、北を指す磁極をN極、南を指す磁極をS極とよぶ。
同じ極間には反発力が、異なる極間には吸引力が働く。
については多くの方がご存じであろう。この章の以下の内容を理解して頂くにはこれで十分である。

図1.1 磁針の指向性と磁極間に働く力

 「なぜ反発力や吸引力が働くか」と疑問を持たれる方がおられるかもしれないが、これに答えることは「なぜ重力が働くか」に答えるのと同じくらい困難である。ここでは、①と③については自然界の法則として受け入れて先に進むことにする。

1.1.2 磁界と磁力線って何だ

 1.1.2項で述べたように磁極間には力が働く。力が働くと言うことは、磁極が周りに何らかの影響を及ぼしているということである。影響を及ぼしている場所を磁界(あるいは磁場)という。無論、磁界がどこにあるかを目で見ることはできないが、工夫すると間接的に見ることができるようになる。たとえば、図1.2の上図は棒磁石の周りに小さな方位磁針を並べた例である。方位磁針の方向は、各々の場所でどの方向に力が働いているかを示している。磁針は徐々に回転し、その先端をつないでいくとN極とS極を結ぶ曲線ができあがる。この曲線を磁力線とよぶ。

 磁力線は、目には見えない磁界を目に見える形に表したものである。磁極を磁界中に置くと、図1.2の下図に示すように磁力線の方向に力を受ける。力の方向はN極とS極で逆方向になるが、N極を置いた際に受ける力の方向を磁力線の方向と決めることにする。そうすると磁力線の方向は、図1.3に示すように、N極からS極に向く方向になる。

図1.2 磁極が受ける力
図1.3 棒磁石の周囲の磁力線

以上のことを整理してみると

磁界は磁極により作られる。一方、磁極は磁界から力を受ける(図1.4)。
磁界を目で見える形で表したのが磁力線である。磁極が磁界から受ける力の向きをつないで作る。N極からS極の向きに向いていると決める。

図1.4 磁極と磁界の関係
1.1.3 N極だけの磁石は作れるか?

 図1.5(a)に示すような磁石を半分に切ると、N極だけの磁石とS極だけの磁石を作ることができるだろうか。悩むよりやってみるのが早いであろう。結果は図1.5(b),(c)に示すようになる。磁石をどんどん小さくしていっても、必ずN極とS極からなる磁石ができてしまう。いったいどうしてこんなことが起こるのであろうか。それに答えるためには、この章のタイトルになっている「磁石の素」について話す必要がある。

図1.5 磁石の分割

 物質は、「原子」と呼ばれる非常に小さな粒(1億分の1cm 程度の大きさ)から構成されている。磁石では、この一つ一つの原子が磁石(原子磁石とよぶことにしよう)になっているのである。この原子磁石が「磁石の素」である。磁石の中で無数の原子磁石が図1.6(a)に示すように整列し、全体として磁石になっている。磁石の中央部では、各原子磁石のN極とS極が打ち消し合い磁極は表れないが、磁石の端では、打ち消し合うことができなため、磁極が表れる。磁石の端のみが鉄片を引きつけることができるのはこのためである。図1.6(b)に示すように、これではいくら磁石を小さくしても、磁石の端には必ずN極とS極が表れてしまい、N極だけやS極だけの磁石はできないわけである。

図1.6 磁石内での原子磁石の配列