長崎大学 工学部 工学科 電気電子工学コース

福永・中野研究室

簡単磁石教室
2章  電流磁気と電磁力
2.4 電流と磁界の相互作用

 2.3節では、コイルを磁石に置き換えることにより磁石の近傍に置いたコイルが受ける力を知る方法を説明した。中学校の理科ではもう少し一般的な理解として、“フレミングの左手の法則”がでてくる。本日参加しておられる先生方の中には中学校の先生方もおられるので、少し抽象的な話になるが、フレミングの左手の法則についても説明しておこう。

フレミングの左手の法則は、磁界の方向(=磁力線の向いている方向)と電流の方向から電流が受ける力(多くの場合電流が流れている導線が受ける力になる)の方向を知るための法則である。おはずかしい話ではあるが、私はこの法則を正確には記憶していない。フレミングの法則には右手の法則もあるし、3つの方向(電流の方向、力の方向、磁界の方向)が関係しているので混乱してしまうのである。加えて、力の方向を知るのみなら、2.3節で説明した方法で用が足りるからである。では、なぜフレミングの左手の法則が教育課程に出てくるのであろうか?この疑問に対する私なりの答えは抽象的な話になるので、まずフレミングの左手の法則を説明しよう。

 図2.7でコイルの大きさをどんどん大きくしていくことを考える。実際には無限には大きくはできないが、考えるだけなら可能である。どんどん大きくしていくと、磁石の周りには導線の直線部のみが存在するようになる。それを図示したのが図2.8(a)である。コイルの曲がった部分は遥か遠くにあり、図の中にはでてこない。コイルを大きくしても力を受ける方向は変わらないので、コイルは図中の大きな矢印で示される方向の力を受ける。

図2.8 磁界中を流れる電流が受ける力

受ける力についてもう少し考えてみよう。いろいろ考えると以下のことに気付く.

コイルの遙かに遠くにある部分(図には出てきていない部分)は固定磁石の作る磁界の影響を受けないので、力を受けているのはコイル全体ではなく、固定磁石の下にある部分(固定磁石の作る磁界の中にある部分)のみである。

磁石とコイルは同じ働きをするので、導線の上下の固定磁石をコイルに置き換えても同じ力を受ける。したがって、電流の流れている導線が力を受ける原因は、上下にある固定磁石にあると言うよりは、磁石やコイルつくる磁界にあると考えるので適当である。

これらのことから、「磁界中を流れる電流は力を受ける」というのが自然界の法則だと考えるのが適当のようである。

 図2.8(b)には、電流、磁界の方向(磁力線の向いている方向)、受ける力の方向を整理して示してある。力の方向は、電流の方向および磁界の方向に垂直になる。この関係を記憶し易く整理したのがフレミングの左手の法則である。左手の人差し指を磁界の方向に、中指を電流の方向に向けると、親指の指す方向が力の方向となる。 

 最後に、最初に起こった疑問「なぜフレミングの法則が必要か」について私なりの考えを述べて私の講義の終わりにしたい。上述したように、力の方向を知るだけなら2.3節までの内容で十分である。フレミングの法則と2.3節の内容の違いは、2.3節では“コイルが磁石から力を受ける”としていたのに対して、フレミングの法則では「磁界中の電流が力を受ける」と解釈している点にあると考えられる。この考え方を取り入れることが、磁界と電流の相互作用に関するより深い理解につながるのだと考えている。